
はじめに
・認知症や知的障がい、精神障がいなどで判断能力が十分でない方を法律面から支える「成年後見制度」。2000年にスタートしたこの制度が、いま約25年ぶりの大きな見直しを迎えようとしています。
・2026年4月3日、政府は制度を抜本的に見直す民法改正案を閣議決定し、国会に提出しました。「一度始めるとやめられない」「生活のすべてを管理されてしまう」といった、長年指摘されてきた使いづらさを解消し、本人の意思を尊重した、必要なときに必要なだけ使える制度へと生まれ変わる見込みです。そして、5月26日衆議院を通過し、参議院に送られました。今国会で成立する見込みが濃厚です。
そもそも成年後見制度とは
・成年後見制度は、判断能力が低下した方に代わって、家庭裁判所が選んだ後見人等が財産の管理や契約などをサポートする仕組みです。現行制度では、本人の判断能力の程度に応じて次の3つの類型に分かれています。障がいが重い順から、
- 後見 … 判断能力がほとんどない方が対象。後見人に広い代理権
- 保佐 … 判断能力が著しく不十分な方が対象。保佐人がサポート
- 補助 … 判断能力が不十分な方が対象。補助人がサポート
・現行の成年後見制度は、本人を守るための制度ですが、運用の面でいくつかの課題が指摘されてきました。
なぜ見直しが必要だったのか
利用が広がっていない
・高齢化が進み、認知症の方は2025年時点で600万人を超えると推計されています。一方で、成年後見制度の利用者は約24万人程度にとどまっており、必要としている方に十分に届いていないのが実情です。その原因は、法定後見がお金も手間もかかり、本人や家族の自由度が低いことに主な原因があります。利用している人たちからの不満の声があります。
「一度始めるとやめられない」
・現行制度では、本人の判断能力が回復しない限り、原則として制度が続きます。たとえば「遺産分割のために一時的に利用を始めたのに、その後も日常の財産管理まで任せ続けることになった」というケースが典型例で、必要がなくなっても途中でやめられない硬直性が問題とされてきました。利用者からは、一度利用してしまうと、死亡するまで、本人の資産が凍結されてしまい、しかも、弁護士などが後見人に就任すると、毎月数万円の報酬を取られるとの不満の声がありました。
権限が包括的すぎる
・特に「後見」では、後見人に広範な権限が与えられ、日常的な買い物にまで影響が及ぶことがあります。本人の自己決定権との兼ね合いが課題となり、「権利擁護のはずが権利制限になっている」との批判もありました。本人の意思決定の代行という側面が強く、支援とか寄り添いという面を軽視していました。
費用の負担
・弁護士・司法書士などの専門職が後見人に就くと、報酬が継続的に発生します。終身にわたって負担が続くことから、利用をためらう家庭も少なくありませんでした。利用したら終わらない制度というのも制度の普及を妨げています。
改正で何が変わるのか(主なポイント)
今回の改正案の柱は、大きく分けて次の3点です。
1. 3類型を「補助」に一本化
・「後見」「保佐」「補助」の3類型を廃止し、「補助」に一本化する方向です。これにより、本人の状況に応じて必要な範囲だけサポートを受けられる、いわば「オーダーメード型」の支援に近づきます。判断能力が著しく低下している方については、不動産の処分など特定の事項に限って権限を付与する「特定補助」といった仕組みも検討されています。「特定補助」は、従来の後見に近い制度ですが、より柔軟になっています。
2. 終身制の廃止
・制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めた場合に、利用を終了したり、代理権・同意権などの一部を取り消したりできるようになる見込みです。「必要なときに、必要な期間だけ」使える制度への転換です。これが適切に運用されるようになると、より使いやすい制度になり、利用も進むし、家庭裁判所の負担も軽くなります。
3. 本人の意思の尊重
・制度全体を通じて、本人の意思や希望をより尊重する設計へと見直されます。「守られる制度」から「自分らしく生きるために選べる制度」へ、という方向性です。これも運用される方法によって、違ってきます。制度運用者の適切な運用が望まれます。
・なお、今回の改正にあわせて、自筆証書遺言を全文手書きで作成する原則を見直す「デジタル遺言」の創設も議論されています。あわせて押さえておきたいテーマです。ただし、私個人の意見としては、「遺言」に関しては印鑑がなくなる以外は大きな運用改善点はないという印象です。
これまでの経緯と今後のスケジュール
- 2024年2月 … 法務大臣が法制審議会に見直しを諮問
- 2024年4月〜2026年1月 … 「民法(成年後見等関係)部会」で審議(計33回)
- 2026年1月27日 … 改正要綱案を取りまとめ
- 2026年2月12日 … 要綱を法制審議会が承認し、法務大臣に答申
- 2026年4月3日 … 政府が民法改正案を閣議決定、国会に提出
- 2026年5月26日…衆議院通過
- 施行(見込み) … 一部を除き公布から2年6か月以内(2028年の夏〜秋頃が見込まれています)
法案は現在国会で審議中で、政府は今国会での成立を目指しています。審議の過程で内容が変わる可能性もあるため、確定情報は引き続き注視が必要です。
いま、私たちにできること
・施行までにはまだ時間がありますが、制度を「自分や家族のためにどう活かすか」を考え始めるのに早すぎることはありません。
- 家族の間で、将来の希望や生活設計を共有しておく
- 「誰に、どのような支援を望むか」を自分の言葉で残しておく
- 任意後見契約や家族信託など、現行制度で取れる備えも検討しておく
- 制度に詳しい専門家とつながっておく
・判断能力が十分なうちに準備をしておくことで、いざというときの選択肢が大きく広がります。
おわりに
・成年後見制度は、25年あまりにわたって多くの方を支えてきました。今回の改正が実現すれば、より柔軟で、本人らしさを大切にできる制度へと生まれ変わります。
・「自分や家族にとって、どの備えが最適なのか」は、置かれた状況によって変わります。〔事務所名〕では、成年後見・任意後見・家族信託・遺言などのご相談を承っています。気になる点がございましたら、お気軽に〔お問合わせリンク〕までご連絡ください。